近年、ニューロリハビリテーションに注目が集まっています。脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病、複数硬化症などの神経疾患は、患者さんの生活やQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼすため、効果的なリハビリテーション手法やデバイスの開発が急務とされています。本記事では、世界のニューロリハビリテーション機器の市場動向や、国内外での最新の取り組みについてご紹介します。日本の理学療法士やリハビリテーション従事者の皆様が、今後の臨床と研究に活かせる情報をまとめました。
世界のニューロリハビリテーション市場規模:急速な拡大
市場規模とCAGR
国際的な調査によると、ニューロリハビリテーション機器の世界市場は2022年に約18.94億ドル(約1,894百万ドル:約2,841億円)と評価され、2032年までに約60.76億ドル(約6,076百万ドル:約9,114億円)に達すると予想されています。
- 年平均成長率(CAGR):12.7%
※CAGR(年平均成長率, Compound Annual Growth Rate)とは、一定期間内に市場や投資が年平均でどれだけ成長したかを示す指標です。 - 主要因:神経疾患の増加、高齢化の進行、テクノロジーの進歩
日本でも高齢化が進行し、脳卒中や変性疾患による後遺症を抱える患者が増加。ニューロリハビリテーションの重要性が一層高まっており、国内外の市場動向からもニューロリハビリテーション領域は拡大が見込まれています。

引用:market.us
主な要因:神経疾患の増加と高齢化
- 脳卒中やパーキンソン病、多発性硬化症などの患者数が世界的に増加
- 人口の高齢化により、加齢性の神経疾患が発症しやすくなる
- 患者本人・介護者の治療意識やリハビリ需要の高まりに伴い、ニューロリハビリテーション機器が求められる状況に
ニューロリハビリテーション機器の製品セグメント
ニューロロボティクス(Neurorobotics)
ロボット工学と神経科学、機械学習を組み合わせたニューロロボティクスは、近年もっとも注目度が高い分野です。
- 主な対象疾患:脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷など
- 例:外骨格型の下肢装置や上肢支援ロボットにより、患者の歩行や上肢機能訓練をサポート
2022年時点でニューロロボティクスが市場で大きなシェアを占め、2032年までに最も高いCAGR(約18.29%)が予測されています。
脳-コンピュータ・インターフェイス(BCI)
BCI技術は、脳波や神経信号を読み取り、デバイスを制御するシステム。近年の研究では、脳卒中後の上肢機能回復や意思伝達支援に活用されており、神経可塑性を高めるリハビリ手段として期待されています。
ウェアラブルデバイス
患者の動作解析や筋活動をモニタリングし、日常生活下でのリハビリテーショントレーニングをサポートするウェアラブル技術も増加。軽量化や動きやすさが課題でしたが、テクノロジーの進歩により装着性が向上し、リハビリテーションの可能性が拡大しています。
非侵襲的な脳刺激装置
非侵襲的なTMS(経頭蓋磁気刺激)やtDCS(経頭蓋直流刺激)など、脳の可塑性を促進しようとするデバイスが脳卒中後の麻痺回復や疼痛管理の領域で注目されています。
主要な対象疾患:脳卒中が最大のシェア
ニューロリハビリテーションにおいて、脳卒中は最も大きな市場シェアを占めています。
- 脳卒中後の後遺症:麻痺、感覚障害、認知機能の低下など
- リハビリテーションの需要が非常に高い:機能回復に加え、ADL向上や再発予防も重要
脊髄損傷やパーキンソン病、多発性硬化症なども市場成長の要因ですが、脳卒中の罹患率・有病率が上昇傾向にあるため、よりロボットリハビリテーションや脳刺激技術への関心が高まっています。

引用:market.us
需要拡大の背景:高齢者人口と技術革新
世界的な高齢化
WHOや国連の報告によると、65歳以上の人口が急増する見込みです。高齢者は神経疾患のリスクが高まるため、それに伴いニューロリハビリテーションの需要も増加します。
ロボット・VR・ゲームベースリハの躍進
- ロボティクス:外骨格型ロボ、リハビリ用ロボット
- VR(バーチャルリアリティ):没入型トレーニングを可能にし、患者のモチベーションを向上
- ゲームベースリハビリテーション:モーションセンサー等を活用し、楽しみながら機能回復を促す
これらの技術革新が、理学療法士による従来の治療プログラムと組み合わさることで、より高い治療効果が期待されています。
日本での展望:理学療法士の新たな役割
専門性の向上と人材育成
ニューロリハビリテーション分野の技術発展に伴い、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が使いこなすべき機器やソフトウェアが増えています。
- ロボットリハビリテーションの操作・評価
- 脳刺激装置やBCIの基礎知識
- VR/ARを活用した運動療法プログラムの開発・実施
最新テクノロジーに対応できる高度専門人材を育成することが、日本におけるリハビリテーション医療の課題と言えるでしょう。
病院・クリニック・在宅での活用
病院やクリニックだけでなく、在宅リハビリテーションでのロボットデバイスやウェアラブル端末の導入も増え始めています。ハンズフリーリハビリテーションや遠隔モニタリングによる定期的なフィードバックが行いやすくなり、地域包括ケアシステムの充実につながると期待されています。
普及の課題:コストと熟練人材
一方で、先端機器の導入コストや、使いこなせるスタッフの確保が課題となっています。とくに新興国や医療資源の少ない地域での普及が難しく、保険適用の範囲や公的支援の充実も大きなテーマです。
- 高価格帯デバイスの導入コスト
- トレーニングやメンテナンス費用
- 医療スタッフの専門知識不足による扱いづらさ
これらの課題を克服するため、製品の低価格化や操作性の向上、人材教育への投資などが急務です。
まとめ:日本の理学療法士が注目すべきニューロリハビリテーションの未来
ニューロリハビリテーションの世界市場は年平均12.7%という高い成長率を示し、2032年までには6,000億円規模に達すると予測されています。日本国内でも高齢化や神経疾患の増加を背景に、ロボットリハビリテーションやBCI、ウェアラブルデバイスなどの普及が進む見通しです。
理学療法士やリハビリ専門職にとっては、テクノロジーを活用した新しいプログラム開発や運用がますます求められます。これからのニューロリハビリテーションは、エビデンスに基づく治療だけでなく、患者の生活の質を支援する幅広い視点が不可欠。さまざまなデバイスや先端技術を理解・活用しながら、より質の高いリハビリテーションサービスを提供できるよう、学びと挑戦を続けていきたいですね。