理学療法士が<シン読解力>を読んで感じたこと。

理学療法

はじめに

理学療法士として患者さんや学生を指導していると、「伝えたはずの内容が、なぜか伝わっていない」「教科書を読んでいるはずなのに、理解が追いついていない」――そんな場面に遭遇することがありませんか? 私自身、理学療法士養成校の教員となる以前に臨床実習の指導者を務めていたとき、学生が実習先で教科書どおりのことすらスムーズに理解できず苦労した経験があります。

最近、<シン読解力>という本を読み、この「教科書が読めているのか」という問題を改めて考えさせられました。本書は教育現場を中心とした議論が主ですが、「学習言語」と「生活言語」の違いなど、理学療法学を学ぶ学生にとっても示唆に富む内容が多々あります。今回はその本の内容から着想を得て、「今の時代だからこそ読解力がより大切」と感じたことを、理学療法士の視点でまとめました。


学生が“読めていない”と感じた瞬間

養成校教員として学生を、臨床実習指導者として学生を指導する場面などで、基本的には教科書で、場合によっては研究論文を基に理学療法の知識を活用するよう学生に求めることがあります。しかし、こちらが「ここを読んで学びを深めてきてね」と指示しても、思うように理解が進まないケースがあると感じます。

  • 教科書の文言をそのまま暗記しているだけで、実際の臨床状況に落とし込めない
  • 用語や定義があいまいで、質疑応答がかみ合わない
  • 教科書や文献を読んできたはずなのに、要点を整理できていない

こうした学生の姿を見ていると、「単に“読む”という行為が足りないのか、それとも“読解の仕方”が身についていないのか?そもそも日本語が読めてないのか?」と疑問を抱かざるを得ませんでした。


生活言語 vs. 学習言語:教科書を読む“壁”

<シン読解力>の中で強調されていたのは、「生活言語」と「学習言語」の違いです。日常会話やSNSで使われる言葉(生活言語)だけでは、教科書や専門書(学習言語)を正確に読みこなすのは難しいといいます。

  • 生活言語:日常会話で使う「なんとなく」の表現
  • 学習言語:教科書や論文などで使われる、専門用語や論理的構成に基づく表現

理学療法士養成校の学生に当てはめると、母国語(日本語)を使いこなしている“つもり”でも、「専門的な文章を正確に読み解く訓練」は十分ではないかもしれません。その結果、文脈を取り違えたり、専門用語の定義が曖昧なまま授業や実習に臨んでしまうのです。


非認知能力やアクティブラーニングとの接点

昨今、教育の場ではアクティブラーニング非認知能力といったキーワードも盛んに語られています。しかし、形式的に「グループワークをすればアクティブラーニングになる」というわけではありません。まずは文章を読み解く力(認知能力の土台)がなければ、ディスカッションが形骸化してしまうリスクがあります。

理学療法の養成校教員・実習指導者として、「こちらが説明している内容が学生にどう伝わるのか」「学生が読んだ教科書をどう消化しているのか」を丁寧にフォローしないと、学生は表面的な理解で終わりがち。特に専門書を読む場面では、“読解力の欠如”がそのまま臨床能力の伸び悩みに繋がりかねないと感じます。


だからこそ<シン読解力>を手に取ってみたい

振り返ると、私自身も「教科書や論文をどう読めばいいのか」を教わる機会はそれほど多くなかったように思います。今になって、学生や実習生を指導する立場になってはじめて「テキストの読み方をきちんと教える」ことの重要性を痛感しています。

<シン読解力>は、学習言語の構造や教科書の前提をどのように認識するかなど、読解力を“更新”するためのヒントが詰まった一冊です。教員や指導者が「学生が本文をどう理解しているか」を把握し、誤解を正していく際に、非常に参考になると感じました。

この本書は「理学療法の専門的な内容を教える前に、まず学生の読解力を再確認することが大切」という重要な視点を提供してくれると感じました。


おわりに:一歩進んだ読解力を求めるなら…

理学療法士養成校の学生が教科書を読めずに苦労している、臨床実習生が指導を上手く理解できずにもどかしい――こうした経験をお持ちの方に、ぜひ<シン読解力>のページをめくってみてほしいと思います。
「教科書や専門書をどう読み解くか」を再考することで、学生指導や臨床現場でのコミュニケーションがぐっとスムーズになるかもしれません。

興味を持たれた方は、ぜひ本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。新しい読解力の視点は、理学療法だけでなく、あらゆる教育・指導の場面で役立つことでしょう。

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