子供が運動すると学業成績がアップする?──短い運動が数学や読みの力を伸ばす理由

教育

子供の学業成績を伸ばすために「勉強時間を増やす」だけが有効策と思いがちですが、実はわずか1回の短い運動(アクティブ・ブレイク)でも学力向上につながる可能性がある、という研究結果が報告されています。本記事では、小学生から中学生を対象とした「短時間の運動と学業成績(特に数学・言語領域)の関係」について詳しく解説していきます。


短い運動が学業成績を高めるって本当?

最近の研究では、子供(6~16歳程度)が1回だけでも運動を行うと、その直後に行う学習テストで数学や言語系科目(読み・読解など)の成績が向上する傾向が示されています。特に「10~20分程度の中強度の運動」が多くの研究で実施され、試験の直後に数学の問題を解かせると点数が上がるという結果が得られています。

数学

  • 数学テスト(例:文章題・計算問題を含む総合的なテスト)では、短い運動の後に成績が向上するという報告があります。
  • 一方、算数のうち「四則演算のみ」に特化したテスト(アリスメティックテスト)では、はっきりした改善が見られなかった研究もあるようです。
  • つまり、計算作業自体というより、文章読解や思考力を要するような数学テストの方が効果を受けやすい可能性が考えられます。

言語(読み・読解など)

  • 読みに関しては、運動後に読解力や単語理解力が上がるとの報告があります。
  • 一方で、スペリング(つづり)や文章構成のテストへの効果は明確に示されなかった研究もあるようです。
  • ただし、子供の年齢や個人差によって結果は変わりうるため、「全ての言語領域が一律に伸びる」と断言はできません。

具体的な運動の方法とポイント

今回の研究群では、「アクティブ・ブレイク(Active Breaks)」と呼ばれる短時間の中~やや高強度の運動が中心でした。授業中や休み時間に取り入れる例としては:

  1. 軽い有酸素運動(エアロビック運動)
    • ジョギングや縄跳び、ダンスなど
    • 心拍数の目安:最大心拍数の50~85%程度(息が上がるけれど会話はできる中~やや激しめの強度)
      ※最大心拍数の求め方は220-年齢で求めます。
       例えば10歳の子供だと220-10=210になります。
       最大心拍数の80%だと210×0.8=168になり、1分間の脈拍が168回程度まで上がる運動が目安になります。
  2. 有酸素+筋力要素を混ぜた運動
    • スクワット、プッシュアップ、バーピーを短いインターバルで組み合わせる
    • 例)4分間の高強度インターバル運動:20秒全力→10秒休憩を数セット
  3. 教室でできるシンプルな活動
    • 教室内での軽い体操、音楽に合わせた軽いステップ運動
    • デスクの周りを安全に回りながら行うウォーキングや軽いジャンプ

運動の時間・頻度

  • 1回あたり4~30分程度が多い
  • 最も多く取り入れられているのは10~20分前後
  • テストや学習活動の直前に行う(20分未満の休憩に組み込む)パターンが多い

運動強度

  • 中~高強度(心拍数でいうと最大心拍数の50~85%程度)
  • 息が上がりすぎないように、ウォーミングアップや適度な休憩をはさむ配慮が大切

行動変容テクニックを組み合わせるとさらに効果的?

研究の中には、子供たちが「どうすれば自発的に運動を頑張れるか」を工夫する行動変容テクニック(Behavior Change Techniques)を使ったケースも見られました。例えば:

  • 目標設定:運動の前に「今日は◯分間の運動を集中して取り組もう」といった目標を共有する
  • フィードバック:運動後に「どれだけ動けたか」や「心拍数がどれだけ上がったか」を子供本人に伝える
  • 小さな報酬:最後まで頑張れたらスタンプをもらう、ポイントが貯まるなど、シンプルな報酬を設定

これらの工夫をすると、子供が自分自身の運動を「前向きにコントロール」している感覚が得られ、学習面でも意欲を高めやすい可能性があります。


なぜ短い運動で学業成績が上がるのか?

まだ明確なメカニズムは研究途中ですが、運動によって以下のような影響が考えられています:

  1. 脳の覚醒レベルが高まる
    • 運動により血流が増え、脳が活性化することで注意力が高まりやすい。
  2. ストレスやモチベーションに好影響
    • 身体を動かすことで気分がリフレッシュし、学習への意欲が上がる可能性。
  3. カテコラミン(ノルアドレナリンなど)の分泌
    • 運動で分泌されるホルモンが一時的に脳機能を促進し、問題解決や読み取り能力に良い影響が出るとする説も。

教育現場や家庭での取り入れ方

  1. 授業前に5~10分のミニ運動
    • 教室で立ち上がって軽い体操やステップを踏む
    • 「今から短い運動をして、その後に算数の計算テストをやってみよう」など、ルーティン化すると習慣づけしやすい
  2. 休み時間に運動スペースを確保
    • 校庭や体育館で自由に走り回れる環境を整備
    • 学校の協力が得られるなら、インターバル的な動きを取り入れた“アクティブ・ブレイク”を導入
  3. 家庭での勉強前のリフレッシュ
    • 塾や宿題に取り組む前に、縄跳びやダンス動画を10分程度
    • 習慣化して「勉強前の準備運動」を定着させる
  4. 行動変容テクニックの活用
    • 親や教師が「今日はどれくらい動いたかな?」と簡単な声かけや記録をつける
    • 頑張りを視覚的に示す(シール、スコアカードなど)

まとめ

子供の学業成績を高めるには、短い運動が効果的という研究結果が報告されています。特に10~20分程度の中強度運動を学習前に実施することで、数学(文章読解や思考を要する問題)や読み(読解力)といった教科・課題で成績が向上する可能性があると示唆されています。さらに、行動変容テクニックを組み合わせると、子供のやる気や集中をより引き出しやすいようです。

「運動=体育の時間だけ」ではなく、授業の合間や家庭学習前のちょっとした時間に取り入れることで、脳のスイッチを入れ、学習効率を高めるヒントにしてみてはいかがでしょうか。

参考文献:Muntaner-Mas A, Morales JS, Martínez-de-Quel Ó, Lubans DR, García-Hermoso A. Acute effect of physical activity on academic outcomes in school-aged youth: A systematic review and multivariate meta-analysis. Scand J Med Sci Sports. 2024 Jan;34(1):e14479. doi: 10.1111/sms.14479. Epub 2023 Aug 25. PMID: 37632197; PMCID: PMC10952189.

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