理学療法士が<歩く マジで人生が変わる習慣>を読んで感じたこと。

理学療法

はじめに

歩くことはヒトの基本的な動作でありながら、現代社会ではAIの発展や車の普及、リモートワークの増加など、さまざまな理由で「歩く機会」が減少していると言われています。一方で、高齢化社会において、歩くことの重要性が再認識され、理学療法士が関わる領域は今後さらに拡大する可能性があります。

本記事では、理学療法士が<歩く マジで人生が変わる習慣>を読んで感じたことをもとに、「AIが進化し余暇時間が増えるにつれて、人々が身体活動をおろそかにするリスクが高まり、理学療法士の役割が疾患の有無を問わず拡大するのではないか?」という視点をお伝えします。産業保健や学校保健など、近年注目されている領域での理学療法士の進出が、これからより一層重要になるのではないかと考えられるのです。


AIの進化と余暇時間の増大:歩行の「忘れられた機能」?

AIの発展と技術の進歩が、仕事の効率化だけでなく私たちの生活スタイルを大きく変えようとしています。将来的には多くの業務が自動化され、移動のためのモビリティも自動運転が当たり前になるかもしれません。その結果、人々の「余暇時間」が増える一方で、「立つ」「歩く」「走る」といった身体活動の機会はむしろ減っていくリスクがあります。

例えば、

  • 車社会自動運転が進み、歩かなくても目的地へ行ける
  • スマートフォンやPCなど、座りながら行う作業がさらに増える
  • レジャーもVRやオンラインゲームで楽しめるようになる

こうした状況が進めば、健康維持のための歩行が意識的に取り入れられなければ、多くの人が「歩かなくなる」可能性が高まります。


理学療法士の新たな役割:疾患がない人こそ“運動指導”が必要?

これまでは、理学療法士は主に疾患や障害を抱えた方のリハビリテーションを担う専門家というイメージが強かったかもしれません。しかし、テクノロジーの進化によって余暇時間が増大し、人々の身体活動が一段と減少する時代においては、

  • 疾患のない人に対する身体機能維持
  • 健康な人への歩行指導や運動指導
  • 産業保健や学校保健の場での介入

がますます重要になってくると考えられます。具体的には以下のようなシーンが想定されます。

  1. 企業での産業保健
    • 座り作業が長いオフィスワーカーに対し、腰痛予防や歩行の重要性を啓発。
    • 歩行スペースの改善、ウォーキングミーティングの推奨など。
  2. 学校保健
    • 子供たちの運動離れ、スマホ依存などを受け、「歩く授業」やアクティブな休み時間の提案。
    • 姿勢評価や足の構造に基づく靴選びのアドバイスなどを行い、将来の外反母趾や足の障害を予防。
  3. 地域・コミュニティレベル
    • 高齢者だけでなく、若年層や働く世代も含めた歩行イベント、ウォーキングプログラムの企画・指導。
    • 公園や街の“ウォークスコア(歩きやすさ指標)”向上への協力・提案。

歩くことの恩恵:身体と心、そして社会にも

歩くことは、筋力・持久力の維持だけでなく、心肺機能の向上ストレス解消創造力の刺激など多面的なメリットがあると多数の研究で示唆されています。さらに、歩きやすい街づくりは社会的にも以下のような利点をもたらすと考えられています。

  • 不動産価値の向上
    • 歩行者にやさしい街は住民の満足度が高く、賃料プレミアムが付く傾向。
  • 活動格差(Activity Inequality)の縮小
    • 誰もが安心して歩ける環境だと、男女や経済状況に関わらず身体活動が増え、健康格差が小さくなる。
  • コミュニティの活性化
    • 歩いて移動することで人とのふれあいや偶然の出会いが増え、地域が元気になる。

理学療法士は、単に個人の身体機能を向上させるだけでなく、このような社会づくりの一端を担う立場としても期待されるかもしれません。


AI時代における「歩く」未来:理学療法士のビジョン

AIがさらに発展し、社会が大きく変容する中で、理学療法士が描くべきビジョンとしては、例えば次のようなものが考えられます。

  1. ウォーキング指導アプリやデバイスの開発・監修
    • AIで歩数や歩幅、歩行分析を自動化し、理学療法士がデータをもとにアドバイスや運動プログラムを設計。
    • 健康保険・企業の福利厚生と連携した定期的なフィードバック体制。
  2. 産業保健・学校保健への本格的な参入
    • オフィスワーカーや学生に対して、靴選びや歩行フォーム、姿勢・動作分析の指導を恒常的に行う。
    • 長時間座ることで起こるリスクを啓発し、アクティブブレイク(休憩中のウォーキングなど)を促進。
  3. 地域・行政・民間企業との連携
    • ウォークスコアの向上に向けた街づくりやイベントの共同企画。
    • 普段の生活での身体活動増進プログラムを開発し、住民に提供。

AIの進化は、逆説的に「人間本来の身体機能を意識し、いかに健康を保つか」という課題をより顕在化させるかもしれません。理学療法士はその中で「歩く意義」を説き、実践方法を提示するキーパーソンとなり得るのではないでしょうか。


おわりに

疾患がある方のリハビリテーションを担うだけでなく、健康な人々にも歩行の重要性や身体機能維持をサポートする——これは理学療法士の新たなスタンダードになりつつあります。AI技術が高度化し、余暇時間が増大すると同時に、人々の身体活動がさらに低下するリスクは無視できません。

その潮流の中で、理学療法士が産業保健や学校保健、地域社会の「歩行・運動習慣」改善に積極的に関わることが、これまで以上に求められていくでしょう。「歩く」という本質的な身体機能を、未来にわたって守り、活かすために——。今がまさに、その一歩を踏み出すタイミングかもしれません。

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