「人格の完成」を具体的に考える:教育基本法と学校教育法を教育現場で活用する方法

教育

教育基本法に掲げられる「人格の完成」という理念は、日本の教育の中心的な目標です。しかし、多くの教育者が抱える悩みとして、「人格の完成」とは抽象的で具体的な実践方法がわかりにくいという声があります。本記事では、「人格の完成」の歴史的背景を踏まえ、学校教育法との関係を明確にし、実際の教育現場で役立つ具体的なアプローチについて解説します。

「人格の完成」とは?歴史的背景を知る

「人格の完成」は、1947年制定の教育基本法第1条に示されている日本の教育の根本理念です。しかし、その採用過程では大きな議論がありました。当時の文部大臣であった田中耕太郎が、カトリックの自然法思想を背景に理想的人間像を示す用語として採用を強く推しました。一方、「人間性の開発」という現実的な表現を推奨する意見もあり、最終的には田中の考えが採用されました。

現代においても「人格の完成」は、道徳的・倫理的成長を促す教育の目的として重要視されていますが、その具体性については議論が続いています。

教育基本法と学校教育法の関係性

教育基本法は教育の根本的な理念や目的を示す法律であり、学校教育法はそれを実際の学校教育現場で具現化するための具体的な規定を提供しています。この二つの法律は密接に関連し、補完関係にあります。

教育基本法が教育の方向性を定める「地図」ならば、学校教育法はその目的地に到達するための具体的な「ガイドライン」です。例えば、教育基本法が掲げる「人格の完成」という理念を学校教育法が実際の授業内容や教育活動の枠組みとして具現化しています。

教育現場での具体的な実践方法

教育現場で「人格の完成」を具体的に取り組むには、以下のようなアプローチが考えられます。

道徳教育での具体的目標設定

道徳教育においては、「人格の完成」を具体化するための明確な評価基準やルーブリックを作成します。例えば、「他者に対する共感を具体的な行動で示す」「クラスのルールを守り、自律した行動ができる」など、具体的な行動目標を設定します。

ポートフォリオを使った評価

生徒が自らの成長を記録するポートフォリオ評価を活用します。これにより、生徒自身が自己の成長を客観的に振り返る機会を提供し、教員や保護者も生徒の成長を具体的に把握できます。

地域活動・社会活動の促進

学校外の地域活動やボランティア活動を通じて、公共心や協調性、自律性を育成します。地域の清掃活動や福祉施設訪問などを定期的に取り入れることで、「人格の完成」に必要な社会的能力を実践的に育てます。

自然体験活動の充実

自然体験を通じて生命や自然への尊重、環境保護の態度を育てます。学校行事としてのキャンプや農業体験、環境保護活動を積極的に計画することで、自然への感性を豊かにします。

教育基本法の理念を具体化するための学校教育法の活用例

学校教育法には、教育基本法の理念を具体的に実践するための詳細な規定があります。特に義務教育では、以下のような目標が定められています。

  • 社会的活動を通じて自主性・協調性を育成
  • 自然体験を通じ生命や環境への尊重を促進
  • 日本や郷土の伝統文化への理解と国際理解の促進
  • 基礎的な家庭生活や職業理解の育成

これらを授業計画や学校行事、評価活動に具体的に取り入れることで、教育基本法が掲げる「人格の完成」を実践的に推進できます。

まとめ:教員として取り組むべき具体的アクション

日本の教育基本法における「人格の完成」という理念は、非常に抽象的でありながら、教育の最も重要な目標の一つです。この理念を、現代の教育や子育てにどう活かすかについて、親として、また教育者として考える必要があります。

「人格の完成」という言葉には、キリスト教的な「神に近づく」という考え方が含まれていますが、仏教や密教的な「人間性の開発」という考え方とも対比させることができます。個人的には「人間性の開発」の方がしっくりくるような印象を受けますが、二つの理念を統合し、子どもたちの全人的な成長を目指す教育を実現することで、より良い未来を築く手助けができるのではないでしょうか。

また、「人格の完成」は抽象的な目標であるからこそ、具体的な目標設定と評価が重要です。教育基本法と学校教育法の関係性を理解し、道徳教育やポートフォリオ評価、地域活動などを積極的に取り入れることで、生徒の人格形成を促進できます。

教育者として、「人格の完成」の理念を具体的な行動や活動に落とし込み、生徒一人ひとりの全人的成長を支援していきましょう。

参考文献

 参考にした文献の情報を載せておきます。

宮村 悠介, 教育と倫理 ─「人格の完成」をめぐって─, まてりあ, 2017, 56 巻, 4 号, p. 275-278
中村 清, 人格の完成をめざす教育の意味, 教育学研究, 1998, 65 巻, 4 号, p. 299-307
井上敏博. 教育の政治的中立に関する一考察. 城西大学女子短期大学部紀要, 1987, 4.1: 113-127.
宮村悠介. 人格論の伝統と現代――人格の倫理学のために――. 2016. PhD Thesis. Aichi University of Education.
山口意友. カント 『教育学講義』 における 「人間性」 と 「人格性」 について. 論叢: 玉川大学教育学部紀要, 2017, 17: 81-99.

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