ChatGPTのDeep Researchを使って、半側空間無視についてレビューしてもらいました。
以下、その内容です。
所要時間は13分。

歴史的経緯
半側空間無視(unilateral spatial neglect)は19世紀末から20世紀初頭にかけて報告が始まった古典的症候です。1876年、英国の神経学者ジャクソンが脳腫瘍患者の症例報告で左片麻痺とともに左側への「無知(imperception)」を記述したのが初期の例とされています。その後も片側の刺激に反応しない患者が報告され、当時は「半側性不注意」や「視覚的迷子(visual disorientation)」など 200以上 の多彩な名称で呼ばれていました。現在では一般に「半側空間無視」や「hemi neglect」といった用語に統一されつつあり、定義も「脳損傷と反対側に提示された新奇または意味のある刺激に対して報告・反応・定位できないこと」と明文化されています。
20世紀を通じて、本症候のメカニズムについて様々な理論が発展しました。空間的注意障害説と空間表象障害説の議論が代表的で、前者は注意の向け方の偏りにより片側を無視するとする立場、後者は脳内の反対側空間の心的表現が欠損しているとする立場です。注意障害説の一例として、Posnerらは注意の「disengage(脱離)困難」が無視の原因と提唱し、患者が健側(損傷と同側)から注意を外せないため反対側へ注意を向けられないと説明しました。一方、Bisiachらの有名なピアッツァ・デル・ドゥオーモの研究では、半側空間無視患者は頭の中で想起した広場の情景ですら左側の情景を無視することが示され、これは空間表象の欠如を示唆する所見と解釈されました。また1970年代にはKinsbourneによる相互抑制モデル(健常脳では左右半球の注意指向性がバランスしているが、片側損傷でバランスが崩れる)が提唱され、1980年代にはHeilmanやMesulamらによる右半球優位モデルが確立しました。右半球は左右両方の空間に注意を配分しうるのに対し、左半球は主に右空間のみを担うため、右脳損傷では左側の注意が著しく損なわれると説明されます。実際、重度で持続的な半側空間無視はほとんど右大脳半球の損傷例に限って生じることが知られています。
近年の研究トレンドとして、半側空間無視は単一の障害ではなく複合的症候群として捉え直されています。行動の二重解離に基づき多数の下位分類(例:空間座標に基づく自己中心的無視と物体中心的無視、近位空間と遠位空間の無視、視覚・聴覚・体性感覚モダリティごとの無視、表象空間の無視〔想像や記憶内での無視〕など)が提唱されてきました。この多様性から、2024年には国際専門家パネルにより名称の統一提案もなされています(一般的包括用語を“空間的無視”としつつ、必要に応じ下位分類名を付す)。また現在では、単なる空間注意の偏向だけでなく非空間的注意(覚醒・持続注意など)の低下も組み合わさった障害と理解されつつあります。実験的にも、右半球損傷例では全般的な覚醒水準の低下や反応の遅延が左無視と共存することが示されており、半側空間無視は注意・認知機能の広範なネットワーク異常による症候群との見解が主流です。
病態のメカニズム
半側空間無視は特定の単一脳部位の損傷ではなく、脳内ネットワークの機能不全によって生じると考えられています。空間注意を司る広範なネットワークには、右半球の頭頂葉(下頭頂小葉~縁上回、上頭頂小葉など)や側頭頭頂接合部、前頭葉(前頭眼野、下前頭回)、および帯状回などの皮質部位が含まれます。Mesulamはこれらを結ぶ大規模ネットワーク(posterior parietal–frontal eye fields–cingulate)こそが空間注意の中枢基盤であり、視覚・聴覚・体性感覚といったモダリティを超えて空間的な重要度(モチベーショナルな顕著性)を評価し、注視対象を次々と切り替える「探索戦略」を生み出す役割を担うと述べています。帯状回は特にこの「動機づけ」や注意の持続・切替の動的制御に関与し、ネットワーク全体のハブとして働くと考えられます。一方、大脳基底核(特に右線条体)や視床といった皮質下構造もこのネットワークと密接に連絡しており、右被殻や右視床のみの梗塞でも顕著な半側空間無視が生じることがあります。これは皮質下構造が皮質ネットワークへ興奮性・抑制性の調節入力を送り、空間情報の選択とフィルタリングに寄与しているためと考えられます。さらに近年の病態研究では、半側空間無視における脳梁を介した半球間ネットワークの不均衡が注目されています。右半球の損傷によって左半球の注意ネットワーク活動が相対的に過剰となり、左右のバランスが崩れてしまうモデルです。Corbettaらの提唱する注意ネットワーク二重モデルによれば、右側の腹側注意ネットワーク(右側頭頭頂接合部や下前頭回の集まり)の損傷が右半球全体の低覚醒化を招き、それにより右の背側注意ネットワーク(頭頂間溝や上頭頂小葉~上側頭小葉と前頭眼野)の活動も低下し、結果として左側空間への注意制御が著しく障害されるといいます。実際、半側空間無視患者では一次視覚野自体は損傷を受けていなくても、左側からの視覚刺激に対する皮質応答が極めて弱くなっていることがPETやfMRI研究で示されています。これは注意ネットワークから視覚野へのトップダウンの入力(「見る」ための準備的な興奮)が不足するためで、結果として左側刺激が視覚皮質で処理されにくくなるのです。興味深いことに、無視症状が改善した患者では右半球の頭頂葉や視覚野の活動低下が回復し、これら感覚領域が再び左側刺激に反応を示すようになることも報告されています。つまり半側空間無視とは、右半球の広域ネットワークの損傷に端を発し、残存するネットワークの機能低下や不均衡を通じて左側空間の情報処理全般が抑制されている状態と捉えられます。
さらに神経可塑性の観点からは、時間経過やリハビリ介入による脳ネットワーク再編成が無視症状の改善に寄与することが示唆されています。安静時fMRIを用いた縦断研究では、発症直後に広範なネットワーク結合の異常(左右半球間の機能的結合低下や、本来相反するべきネットワーク同士の異常な同期)が認められた患者群で、3か月後の追跡時にこれらネットワーク結合パターンが正常化に向かうほど無視症状の回復も良好であったことが報告されています。具体的には、初期には低下していた左右半球間の機能的結合(注意ネットワーク間のみならず感覚・運動ネットワーク間も含む)が改善期に増大し、また本来互いに抑制し合う関係にある背側注意ネットワークとデフォルトモードネットワークの反関連(anti-correlation)が右半球を中心に回復してくることが明らかとなりました。このように、半側空間無視の自然回復や訓練効果の背景には、損傷によって崩れた脳内ネットワークの機能バランスが再調整(リバランス)される過程が存在すると考えられています。現在、この可塑的変化を促進する方法として非侵襲的脳刺激なども試みられており(後述)、神経ネットワークレベルでのリハビリ効果の解明が進められています。
最新の治療法
リハビリテーションによる訓練的アプローチ: 半側空間無視に対するリハビリ介入法は数多く考案されていますが、古くから行われている基本的手法は視覚探索訓練(スキャンニング訓練)です。これは紙上の課題やコンピュータ画面上で、患者に意識的に左側へ視線と注意を向ける練習を繰り返させるもので、代表的なものに線分二等分テストやキャンセル課題を用いた訓練があります。視覚探索訓練は短期的に無視症状を軽減しうることが多くの研究で示されており、特に集中訓練によって左側への探索範囲が拡大することが報告されています。Luautéらによるシステマティックレビューでも、視覚探索訓練は推奨できる介入との結論が示されており、現在でもリハビリ現場で標準的に実施されています。また、この訓練効果を高める工夫として、患者の左半身や左手を意図的に動かさせる「肢節活性化法」や、左方向へ体幹を回旋させながら探索する方法、あるいは左頸部の振動刺激と組み合わせる方法なども研究されてきました。例えば、左首の筋振動刺激とプリズム順応(ベクトル的に視野をシフトさせる眼鏡装着訓練)を組み合わせると双方の効果が加算的に現れるとの報告もあります。特にプリズム順応療法は近年注目のリハ手法で、ベースアウトプリズム眼鏡によって視覚世界を右に偏位させ、患者がそのズレを補正して左方向へ手を伸ばす訓練を繰り返すものです。この方法は比較的短時間の練習で持続効果が得られる場合があり、多くの臨床研究で有効性が示されています。実際、プリズム療法は「左半側空間無視改善において他の追随を許さない(first among equals)」との評価もあり、長期的な機能改善につながった例も報告されています。
一方、鏡療法(Mirror Therapy)も近年取り入れられているリハビリ手法です。もともと鏡療法は麻痺肢の運動機能回復や幻肢痛の軽減目的で考案されましたが、半側空間無視に応用することで健側の映像を鏡に映して麻痺側と錯覚させ、左側への注意を誘導する狙いがあります。実際のランダム化比較試験(MUST trial)では、鏡療法群で星印抹消課題や線分二等分課題の成績が有意に向上し、その効果が少なくとも6か月持続することが示されました。さらに2010年代以降のRCTをまとめたシステマティックレビューでも、鏡療法はシャム対照に比べ有意な無視症状の改善をもたらし、日常生活動作(ADL)の自立度向上にも効果があると結論づけられています。例えばメタ分析では、鏡療法介入群は対照群に比べ標準化平均差(SMD)で約1.6ポイント大きく無視症状が改善し、ADL得点でもSMD約2.1ポイントの有意差が認められました。以上より、鏡療法は簡便かつ有望な補助的リハ手段として導入が進んでいます。
非侵襲的脳刺激によるアプローチ: 脳の可塑性を促進し無視症状を改善する目的で、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電流刺激(tDCS)といった非侵襲的脳刺激法の研究も盛んです。TMSでは主に低頻度(1Hz)の反復刺激を健常側の頭頂葉や運動前野に与えてその活動を一時的に抑制し、過剰な相互抑制のバランスを整える手法が用いられます。複数のRCTを対象としたメタ解析では、TMSを受けた群はシャム刺激群に比べて線分二等分試験の誤差が有意に減少し(SMDで2.35の改善)、文字抹消試験やAlbertテストなど他の無視検出テストでも有意な成績向上が得られています。総合的にみて、rTMSによる刺激は半側空間無視の改善に有効であり、シャムに比べ有意に症状を軽減しうるとの結論が報告されています。特に左半球への1Hz反復刺激や右半球への高頻度刺激で効果が高いとの知見が蓄積しています。一方、tDCSでは直流微弱電流を頭皮上から流し、大脳皮質の興奮性を持続的に変化させます。右半球の頭頂–側頭領域に陽極刺激(anodal tDCS)を与えて低下した興奮性を高めたり、左半球同 homolog 部位に陰極刺激を与えて抑制したりすることで、左右差の是正を図る試みがなされています。tDCSもランダム化試験で無視症状の改善を示す結果が報告されており、メタ解析ではTMSほどエビデンスは多くないものの全般的に有益な効果が支持されています。さらに近年では、数十Hzの高速TMSパルスを断続的に与えるシータバースト刺激(TBS)も注目されています。TBSは短時間(数分)で長時間持続する可塑的効果を誘発できる利点があり、連続TBS(cTBS)によって無視症状が有意に改善したとの報告が相次いでいます。2021年のレビューでも「TBSは半側空間無視の回復に有望な効果をもたらしうる」と結論づけられており、今後さらなる大規模検証が期待されています。
AI機器・ロボティクス・ウェアラブルデバイス
最新のテクノロジーも半側空間無視の評価・治療に取り入れられ始めています。視覚フィードバックシステムの例としては、仮想現実(VR) 技術の活用が挙げられます。VR環境下で患者に視覚探索課題を行わせると、現実空間で訓練するよりも左側への注意促進がしやすく、楽しみながら集中的なリハビリが可能です。実際、いくつかの研究ではVRを用いたリハビリ訓練により従来法を上回る改善効果が得られ、日常生活動作の遂行能力が向上したと報告されています。例えばKimらの研究では、ヘッドマウント型のVRシステムで左側探索訓練を行った患者は、従来訓練を行った患者に比べ食事や更衣などADLの自立度が有意に改善しました。またVRならではのメリットとして、リハビリだけでなく評価ツールとしての活用も期待されています。JeonらはVR内で患者の視野と注視範囲を測定するFOPRテスト(Field-of-Perception and Field-of-Regard Test)を開発し、半側空間無視の 「見えているが認識できていない」領域 を定量評価することに成功しました。このようにVR技術はマルチモーダルな感覚刺激や精密な動作記録を可能にし、無視の程度を客観的にモニタリングしつつ適切なフィードバックを与えるシステム構築に貢献しています。
ニューロフィードバック(NFB)の活用: ニューロフィードバックとは、自分の脳活動をリアルタイムに視覚や聴覚フィードバックとして受け取り、それを手がかりに自身で脳活動パターンを修正する訓練です。半側空間無視への応用研究としては、脳波や脳血流の左右差に着目した試みが報告されています。例えば、右頭頂部のα波活動が過剰に高い(覚醒低下を反映すると考えられる)無視患者に対し、EEGニューロフィードバックで右頭頂部α波の抑制を訓練したケースでは、わずか6日間の訓練で患者が自らα波振幅を有意に低下させることに成功し、それに伴って左側への視覚探索成績(キャンセル課題の完遂率)が向上しました。訓練前後で比較すると、右頭頂部のα波振幅変動域(ダイナミックレンジ)が拡大した患者ほど視空間探索障害の改善が大きく、この相関関係が確認されています。著者らは、半側空間無視における注意障害は一定の脳波パターン(過剰なα波による低覚醒状態)に対応しており、ニューロフィードバックによってそのパターンを正常化することで注意ネットワークの可塑的改善が促進される可能性を示唆しています。このようにニューロフィードバックは患者自身の能動的な脳トレーニング手法としてユニークであり、今後さらなる臨床応用研究が進めば無視症状に対する革新的リハビリ手段となり得るでしょう。
AI・ロボット技術とウェアラブルデバイス: 半側空間無視のリハビリ支援には、AIを組み込んだインタラクティブな訓練システムやロボットデバイスの活用も模索されています。例えば、ゲーム要素を取り入れたシリアスゲームによって患者の注意訓練を行うプログラムでは、AIがリアルタイムに患者の反応を解析し、難易度や刺激提示を動的に調整することで最適なリハビリ負荷を提供します。この種の認知訓練ゲームやバーチャルエージェントは、従来単調になりがちな訓練を楽しく継続させる工夫としても注目されています。また、ウェアラブルデバイスを用いたアプローチでは、患者の身体に装着したセンサーやアクチュエータが注意の偏りを補正するフィードバックを与えます。例えば、ある研究では患者の健側手首に振動するリストバンド型デバイスを装着させ、一定時間左手が動いていないと振動で注意喚起する試みがなされました。3週間の装着訓練により左側への自発的注意が促進され、無視症状の軽減につながったとの報告です。他にも、視線計測が可能なスマートグラスが患者の見落とした対象をハイライト表示したり、電動車椅子が左側障害物を自動検知して回避補助するといったロボティクスの応用も検討されています。これら最新技術による多感覚フィードバックや自動化支援は、患者一人ひとりの状態に合わせてカスタマイズ可能であり、従来の人的リハ指導を補完・強化するものとして期待されています。とはいえ現時点では開発途上のシステムが多く、その有効性についてエビデンスを蓄積していく段階です。今後は神経科学的知見とAI・デバイス技術を融合させ、半側空間無視の客観的評価から個別最適化された介入まで包括的に支援できるプラットフォーム構築が目指されています。各国の研究者が協働しつつ、このユニークな症候に対する新たな治療・補助手段の確立に向けた取り組みが加速しているところです。
参考文献
・半側空間無視の歴史的発見から最新治療まで網羅したレビューとして、Jacques Luautéらによる総説pubmed.ncbi.nlm.nih.govやCorbettaらの神経ネットワーク論文pmc.ncbi.nlm.nih.gov、pmc.ncbi.nlm.nih.gov
・最近の非侵襲刺激のメタ分析pmc.ncbi.nlm.nih.gov、pmc.ncbi.nlm.nih.gov
・鏡療法のレビューpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
・VR・BCI応用の展望論文pubmed.ncbi.nlm.nih.govなど
ここからは、筆者の感想と関連記事。
・主要なところは抑えている感じ!
・もう少しレビューしてもらう範囲を絞り込むとさらにいい感じになるのかな?
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